第5話「いま、解かれし封印」
〜シャイターンの居城〜
「シャイターン様!例の本を入手しました!こちらに御座います」 | |
「早いな…さすがに我も驚いたぞ。よくやった。褒美を取らす」 | |
「ありがたき幸せ。しかしなれど、シャイターン様御自ら御用意されていたダミーのお陰でございます。しかし、何故同様の封印の本を御用意できたのです?」 | |
「うむ、古代の魔導書はその大半がウァドラ・ステラ=リフタ式の封印だ。こんなこともあろうかと、な。ラーと直接ことを構えるのはちと手を焼く。ならば、気づかれずに入手するのが一番よ」 | |
「おお…『こんなこともあろうかと』、一度は言ってみたいセリフです」 | |
「クックック…貴様にはまだちと早い。精進せい」 | |
「恐れ入ります」 | |
「どれ、封印を解き、我が魔力を増大させるとするか!」 | |
「おお…!」 | |
「魔力集中…封印解除…」 | |
「ゴクリ」 | |
「ステラ=ラダトニア! リフタ!」 |
本がまばゆく輝き、やがてその光は消え去った!
「おお…シャイターン様…さすがです!」 | |
「これで封印解除は成った!続けて魔導書の術式を詠唱・開放する!」 | |
「これで神々への復讐へとまた一歩、近づきますな!」 | |
「どれどれ…」 | |
「今日も残業だ。しかも無給。サービス残業。まいったね。しかも定時ギリギリに書類持ってきやがって…」 | |
「?」 | |
「これでまた女房に怒られる。以前も残業のせいでありもしない浮気を疑われた。もうたくさんだ。俺だって好きで残業してるんじゃない。くそったれめ。」 | |
「……?」 | |
「今日、部長に家族サービスできてる? 残業ばっかしてると逃げられちゃうゾ☆とか言われた。お・前・の・せ・い・だ・よ・お・前・の! お前がいっつも書類を時間ギリギリに出すせいだろーが!」 | |
「い、いったい何を…!?」 | |
「おっといけねえ。これが部長の目に触れたらめんどくさいから、この愚痴日記は封印を施しておこう。なーに、あいつは封印解除術なんて使えない。これで安心だ」 | |
「シャ、シャイターン様…」 | |
「安心だじゃないわ! まぎらわしいことしおって!…おい、この部長とやらを処してこい…!」 | |
「し、しかしながら…古代ゆえもう存命ではないかと…」 | |
「ばかものがあ!」 |
〜一方そのころ、王宮〜
「本をすり替えられたあ!?」 | |
「え、大変じゃないですか!」 | |
「でもおかしいわね。この王宮で簡単にそんなことできるはずないのだけれど」 | |
「それはね…」 | |
「私の策略です」 | |
「ウプウアウト?」 | |
「意図的にこの部屋を留守にし、間者を誘い出しました。目星をつけていたそのメイドが、見事ひっかかってくれたというわけですね」 | |
「あ、じゃあお小言も」 | |
「いやあれは本当ですよ」 | |
「私が言っておいたからな。最近マウラベーラが遊び過ぎだからと、釘を刺すようにと」 | |
「お父さま!」 | |
「え、…お父さまということは…!」 | |
「お、おおおおおお、おうさま!」 | |
「はっはっは!ネクベトの友人らよ、かしこまらず良い。今は君らの友の父にすぎん」 | |
「お、恐れ入ります」 | |
「これからも王宮に遊びに来るといい。遠慮はいらん。ネクベトと仲良くしてやってくれ」 | |
「は、はい!」 | |
「ふふ、お父さまったら」 | |
「陛下、件のメイドは既に捕らえてあります。この後取り調べを」 | |
「うむ…どうせシャイターンの手の者だろう。新たな情報は期待できそうにはないがな」 | |
「あ、あの…本、向こうに渡っちゃったんですよね。そのシャイターンって人が危険な人だったら…」 | |
「その辺は大丈夫。こっちもすり替えていたから」 | |
「えっ!」 | |
「実は部屋を出るとき、すでに封印の種類はわかってたんだ。その時、同種の適当な封印の本とすり替えておいたの」 | |
「す、すげー!」 | |
「裏をかいたってことですね」 | |
「あら? でも封印の種類までわかったということは…」 | |
「ええ、すぐに解除が可能よ」 | |
「だがそれなりの魔力が必要だろう。ふふ、面白そうだ。私がやろう」 | |
「陛下、しかし…」 | |
「よい。娘の友人たちに、媚を売っておきたくてな。はっはっは!」 | |
「お、おお、恐れ入ります」 | |
「ふむ…集中…封印解除…」 | |
「ステラ=ラダトニア! リフタ!」 | |
「うわっ、まぶし!」 | |
「これで解除完了だ」 | |
「いよいよですわね」 | |
「なんて書いてあるのかわかるのね…で、でも危険な内容だったら…」 | |
「大丈夫だ。私とウプウで必ずや君らは守る。いいぞ、ウプウ、読んでくれ」 | |
「はっ…! それでは…」 | |
「ゴクリ」 | |
「えー…ちょっとスパイスのバランスが悪く、独りよがりの味。3.1点。肉が生焼け。中心まで火が通っていない。最悪。1.5点」 | |
「……?」 | |
「ん…?」 | |
「口の中でほどけるシャリの具合は完璧だが店の衛生面にやや難あり。3.9点 味は大したことはないがおばちゃんの接客に癒される。また帰ってきたい店3.0点」 | |
「こ、これは…」 | |
「むう…」 | |
「味は完璧。過剰なまでのサービス。後世にまで伝えられるべき名店 4.9点 たゆまぬ店主の努力で年々味は上がってきてるがあと一歩。 3.4点」 | |
「……」 | |
「……」 | |
「……」 | |
「……」 | |
「……」 |
おわり
【アリババと王たちと封印の本】
■ 第1話「ある日、ある書店にて」
■ 第2話「王宮の術師」
■ 第3話「砂漠の姫、復讐の魔神」
■ 第4話「暗躍」
■ 第5話「いま、解かれし封印」
■ 登場人物紹介(相関図)
【ネイトとネクベトのこの人ってどんな人?のコーナー!】
① アリババ
② モルジアナ
③ シーリーン
④ マウラベーラ
⑤ ネクベト
⑥ ウプウアウト
⑦ ラー
⑧ シャイターン